デジタルトランスフォーメーション(DX)勉強会(2020年5月28日)
DXについて事務所内勉強会で講師
私はDX技術の専門家ではありませんし、個別技術を深堀しようとも考えていません。JICAの事業にDXをどう活用できるか関心があるだけです。このレベルですので、まず代表的なDX技術について、私なりの解釈をご説明させて頂きます。その後、DX技術をアフリカの電力開発協力にこう使いたい、という私の想いをサンプルとしてお話しさせて頂きます。前部署の資源・エネルギーGで、オルカリア地熱発電所のO&MをIOTを使って改善する技プロの立ち上げさせて頂いたので、その時の経験もお話しいたします。
<AI>
DXで一番よく耳にするのはAIではないでしょうか。年末の紅白にAI美空ひばりが登場したのは記憶に新しいですね。とうとう囲碁でも人間はAIに勝てなくなりました。ルールがある中でのAIは圧倒的です。彼らは24時間ディープラーニングすることができますから。
お配りした資料でAI=ビッグデータ×アルゴリズムと記載しました。数冊読んで一番私が納得できたAIの説明です。ビッグデータの「ビッグ」を丸で囲んでください。アルゴリズムの後ろに(認識して予測・実行する)、と書いてください。認識して予測・実行するです。
アルゴリズムとはコンピューターに指示する計算方法、計算ロジックです。AIの場合は人間の脳を参考にしたアルゴリズムですので、子供が経験を積んで犬を犬と認識するように、AIはインプットされるビッグデータから規則性や関連性を見つけて、犬を犬と認識できるようになります。いろんな犬の写真を何万枚も見せてこれが犬だと教え続けると犬の特徴をAI自身が認識するのです。認識対象は画像でなくて、音声・言語でも大丈夫です。これが認識の段階です。認識できれば、ライオンの写真を見せても、比較・予測してこれは犬ではないと答えられるようになります。これが予測・実行の段階です。
自動運転なんてまさにこれですよね。まず車のAIに車や自転車、歩行者、信号、標識が何なのかをしっかり認識してもらいます。その認識を持った車が、走行中、カメラから入ってくる道路状況に基づいて自動運転できるようになるわけです。AIはトマトが赤くなって熟したのを認識して、収穫を指示することもできます。
根本はコンピュータープログラムですので、定量化、数値化できればどんな分野にでも応用できると思います。例えばAIと医療でググってみてください。ものすごい数の検索結果が出てきます。初期診断と薬の処方はAI、二次診断から医者なんていう時代が来るかもしれませんね。医者が余っている国には不要でしょうが、シエラとか南スーダンは大歓迎だと思います。先日、富士フィルムがAIを使ってコロナ診断を支援するAIを開発するとニュースに出ていました。CT画像から病状を認識させるらしいです。
AIを活用するにはビッグデータが必要です。データが足りないと、正しく認識することができず、誤った解を出してしまいます。もっとも、少ないデータの解析なら人がやった方が早いし正確だと思います。何でもかんでもAIを使う必要はもちろんありません。
AIにはビッグデータの他に、アルゴリズムを作れる人が必要です。このアルゴリズムを組むにはプログラマーが必要ですが、我々のような分野の専門性も当然必要です。ここは分業でいいと思います。我々はどのパラメータが重要で、それぞれのパラメータがこうなったらこう判断する、いわゆる正解をプログラマーに伝える必要があります。重要なパラメータが何なのか、そのパラメータに紐づいたビッグデータの収集、コンピューターが認識する際の正解、認識が終わったAIの活用方法は我々が考えなければなりません。
何が重要なパラメータか整理する際、AI技術が使えると思います。手書き文字や言語を認識するAIアプリが開発されています。例えば、セミナーを録音したり、アンケートを回収し、アプリでコンピューターに認識させれば、頻出単語分析で、重要パラメータを分析できるかもしれませんね。
繰り返しになりますが、アルゴリズムを作るのは人間、分析結果を基に社会実装するのも、アルゴリズムを改善するのも人間であることを忘れてはいけないのです。
<IOT>
Internet of Things。ものとコンピューター、ものと人をインターネットでつなぐ技術です。例えば、外から家のエアコンを操作できる。これは分かり易いIOT技術だと思います。IOTの中核技術はセンサーだと思います。センサーで計測した数値をインターネットで飛ばします。例えば、発電所では温度計、圧力計、振動計、監視カメラなど多くのセンサーで計測したデータをオペレーションルームに集め、人間が運転しています。これらのデータをインターネットに飛ばせば、日本から遠隔監視することも技術的には可能です。ものすごいセキュリティが必要ですが。
いずれにせよ、カメラを含めたセンサーの値段が安くなったことで、いろんなものにセンサーを手頃に設置できるようになりました。センサーからはリアルタイムでデータを発信できます。もう分かりますね。IOTはAIが必要とするビッグデータを安価に生み出すことができるのです。
<5G>
高い周波数、つまり波長の短い電波を使った無線通信技術です。波長の短い電波の制御が技術的なハードルでしたが、できるようになってきました。波長が短くなるほど減衰しやすくなるので、基地局をより多く設置する必要があります。一方でメリットは3つ。①高速大容量通信、② 超信頼・低遅延通信、③ 多数同時接続です。
高速大容量通信はよくわかりますね。動画を桁違いに早くダウンロードできるようになります。私がJICAの事業にとって一番いいなと思っているのは、テレミーティングです。今は音声画像がよく切れますが、このストレスが桁違いに減るはずです。テレビ会議を8Kの画質でやる時代が来るかもしれませんね。
超信頼・低遅延通信は切れにくい、切れても瞬時に繋がるということです。車の自動運転にはなくてはならない技術ですね。
多数同時接続は文字通り、多くの機器を同時に接続できる技術です。これはセンサーを多数使うIOTとの相性がばっちり。IOTを更に普及させて行くに違いありません。
プリントに「5Gでなくてもよいかも」と書きましたが、JICAの事業を考えた場合、何でもかんでも5Gである必要はもちろんありません。5G以外にも光ファイバー、衛星通信、4Gも選択できます。その国その地域にあった通信手段を選べばいいと思います。逆に、必要な場合は資金協力や技術協力の中で通信インフラを整備すればよいと思います。我々は町中に基地局を設置する必要はありません。サイトに設置できればいいのです。
DXの代表的な技術について話しました。更に理解を深めたい方は、AIと農業とか、IOTと交通とか、5Gと医療など、分野と引っ掛けてググってみてください。JICAの人間は技術を深堀するよりは、利用例を勉強したほうが実践的かもしれませんね。
<DXは道具>
続いて、「DXは道具」と書きましたがまさにその通りだと思います。道具なだけにプラスの面とマイナスの面があります。鉄は鍬として農耕を支えましたが、武器としては多くの人を殺してきました。熱機関は車や電気になって産業革命を支えてきましたが、労働者の囲い込みや環境問題をもたらせました。DXも同じことになると思います。不安先行の方はシンニッポンという本を読んでメリットを感じてください。少子高齢化への切り札になる技術だと思います。また、日本はDXの発明では後れを取りましたが、その活用や改善ではリードできる可能性がありますし、そうしていかなければなりません。自動車産業でもそうでしたもんね。
DXは強力な道具だけに、拒んでも勝手に普及してしまいます。当たり前ですが、道具をどう使うかは人が決めるものです。自分がJICAで実現したいことは何か、それにDXをどう使えるか、考えればいいのだと思います。
<アフリカ電力開発協力DX>
もう一つお配りしたアフリカ電力開発協力DXはケニア事務所のエネルギーKMNの提言書で、資源・エネルギーGに提出したものです。この提言書は私が資源・エネルギーGに戻れたらやりたいことそのものです。私は残りのJICA人生で2つやりたいことがありますが、一つが、安価で低炭素な電力をアフリカに安定供給することと、その事業の中で日本の企業に挑戦・成長してもらうことです。特にシエラレベルの国でそれを実現できたらと心から思っています。
これまで電力の協力に携わり、いくつか問題点を感じていました。
一つ目は専門家の確保の難しさです。ケニアレベルですとそうでもない場合もありますが、シエラレベルだと相当つらい。
二つ目は技術協力に要する時間です。アフリカは個々に優秀な経営者や技術者はいても、総体的な組織力や技術力は弱いと思います。特に、シエラのように内戦で教育が施せなかった期間がある国は顕著だと思います。ともすると技術協力はフェーズ2とかフェーズ3にもつれ込んでしまい、途上国が真に必要とする効果を長年発現できない場合があります。電力の場合ですと、発電公社のエンジニアの育成に時間がかかり過ぎて、その間、電力を安定供給できないような状況です。シエラがまさにこの状態で、なかなかエンジニアの能力が一定のレベルに到達せず、プロジェクトを切り上げることができません。発電公社には喜ばれますが、国民や大統領には何をやっているのか分かってもらえない。彼らが欲しいのはエンジニアの能力向上ではなく、電力の安定供給ですから。
シエラの場合、あげく、スペアパーツ購入の費用をCPが確保できず、発電機停止の事態になっています。機械のメンテナンスも重要ですが、もちろん経営も重要。もう三つ目に入っていますが、JICAはO&M、Operation & MaintenanceのMaintenanceにやや傾いているのではないかと思います。
最後は電力分野で日本が圧倒している分野は地熱プラントなどに限られていることです。日本の先行きに不安を感じます。もちろん地熱は優れた発電方式ですが、世界の発電量から見れば0.3%に過ぎない。本当は、もっとガス火力や送電線などの資金協力を増やさないといけない。売れるものを売る協力ではなく、売れるものを増やすような協力をしないと、アフリカのニーズに応えることができないと思います。
こんな課題がある中で、アフリカで安価で低炭素な電力を安定供給するにはどうしたらよいか。まずは電力経営や電力供給に世界トップクラスの知見を有する日本の電力会社に、アフリカの電力供給にもっと参加してもらいたいと願っています。IOTを活用して発電機や送電線を日本から監視、指導できるようになれば、国外作業を減らせることができ、参加しやすくなると考えています。アメリカのGEが既にタンザニアのガス火力設備をヒューストンから遠隔監視しています。日本にもできます。ただし、Face to faceの指導をゼロにすることはできません。遠隔との線引きはプロジェクトを実施しながら決めていく必要があると考えています。
次に、機器のメンテナンスについて、DX技術でできるものは電力公社のエンジニアではなくDXにやってもらえばいいと思います。JICAは手が空いた分を経営改善に注力すればいいと思います。まずは、電力会社が有するプラントの運営維持管理の知見をAIに落とし込む作業が必要です。元々、日本の電力会社は人力で維持管理できるので、AI化する必要がなく、開発が遅れている面があるかもしれませんが、開発を進めて、ビジネス化しようとしている会社もあります。アフリカの電力公社はこのような技術を必要としていますので、技術協力プロジェクトを技術開発の場として電力会社などに提供することで、双方Win-winの関係になり得ると思います。技術開発してもらいつつ、電力公社の維持管理能力を高めてもらう感じです。実現すれば、技術者育成の時間を短縮でき、経営改善にも力を入れることができますので、電力安定供給というアフリカが望む結果によりコミットできる協力になるのではないでしょうか?
また、電力設備の運営維持管理の場合、技術協力終了後はJICAは撤退し、日本の電力会社とアフリカの電力公社の間のO&Mビジネスに繋がれば持続性も担保できると期待しています。効率化による電力公社のコスト削減の何割かを日本の電力会社が得るような形でしょうか。
最後に、このようなDX技術が付加価値として加わったプラントが出来れば、アフリカの望む質の高いインフラ輸出ができるようになると思います。資金協力の幅も広がるはずです。